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家路

ふぅーーーっっ

上着を脱ぎ、ネクタイを外す時・・・

俺が最も肩の力を抜けるのは、この一瞬なのかもしれない。

 

子供の頃

夏は毎年、啓吾と二人・・・いや、澪と三人の時もあった。

野山を駆け回り、昆虫採集や探検ごっこに夢中になり

外が暗くなるまで一緒に遊んだ。

そして、空腹になると、勝手口のドアからそっと調理室へ入り込み

母におやつをねだった。

だが・・・

それはほんの一時、そう、夏休みの間だけ。

俺にとっては、まるで夢の中の時間だ。

普段の俺は・・・

地元の小学校まで、子供の足では軽く一時間はかかるこの山荘から

毎日毎日、学校に通い

放課後のほとんどの時間を一人で過ごした。

いや、違う。

母と二人で過ごしていた。

友人たちと遊ぶ時間をあまり持たない俺を

母は事の外心配した。

母を安心させる為

時々俺は、学校の傍の住宅街に住む友人たちと約束を交わし

彼らの家を訪ねた。

だが、そんな時はいつも・・・

遊び疲れて帰る家路が

遠く  遠く

永遠に到着しないのではないだろうかと不安になる程

遠くに感じた。

 

昼間でも薄暗い森の木々たちは

夕暮れ時、家路を急ぐ俺の頭上に

まるで覆いかぶさるように

風にゆれる葉の擦れ合う音を

大きく、俺の耳に響かせ

子供の俺はその度

いつも通るその道が、まるで初めて見る場所のように思えた。

不安と恐れに必死で絶えながら

やっと辿り着いた山荘の外灯は

一体どれ程俺の心を安堵させてくれただろう。

ドアを開けて中に入り、

「お帰り~」

っと聞こえる母の声を耳にした時

それは・・・

この、ネクタイを解いた瞬間にも匹敵する

いやっ、それ以上の・・・

心地よい脱力感を、俺に与えてくれた。

 

ふっ・・・

子供の頃を思い出すなんて

今日の俺は、何故か少しセンチになっているようだ。

こういう時は、無性に類子の顔が見たくなる。

俺は、類子を守るつもりでいるが・・・

実際、守られているのは、もしかすると俺の方なのかもしれないな。

 

 


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