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雨上がり

さっきまで嵐のように降り続けていた雨が、今はピタリと止んで

まるで夏の太陽のような明るい輝きが、濡れた森の木々たちを覆いつくしている。

俺達はその煌きに引かれるように、湖への道を散策した。

 

大きな木が生い茂るこの森も

今は沢山の木漏れ日に美しく照らされている。

湖を渡ってくる風は、雨上がりの濡れた匂いを俺達の元に運んで来た。

 

森を抜け、湖の桟橋へ辿り着こうとしたその時、

2~3粒の大きな水滴が、頭上から降り注いで来た。

それは、俺のこめかみを伝い、頬を濡らし、唇まで侵食した。

 

「槐・・・じっとしてて」

 

俺が拭うよりも早く、類子の唇が俺の唇からその水滴を掠め取っていった。

そして、俺の唇を濡らした水滴は

悪戯な微笑を浮かべる類子の唇を濡らしている。

降り注ぐ午後の太陽が、類子の唇をキラキラと輝かせた。

 

美しい彼女の姿と、湖を渡る雨上がりの清々しい風

 

俺は、神さまから、思いがけない贈り物を貰ったと

ふと笑顔がこぼれる・・・

そんな幸せな午後だった。

 

 


家路

ふぅーーーっっ

上着を脱ぎ、ネクタイを外す時・・・

俺が最も肩の力を抜けるのは、この一瞬なのかもしれない。

 

子供の頃

夏は毎年、啓吾と二人・・・いや、澪と三人の時もあった。

野山を駆け回り、昆虫採集や探検ごっこに夢中になり

外が暗くなるまで一緒に遊んだ。

そして、空腹になると、勝手口のドアからそっと調理室へ入り込み

母におやつをねだった。

だが・・・

それはほんの一時、そう、夏休みの間だけ。

俺にとっては、まるで夢の中の時間だ。

普段の俺は・・・

地元の小学校まで、子供の足では軽く一時間はかかるこの山荘から

毎日毎日、学校に通い

放課後のほとんどの時間を一人で過ごした。

いや、違う。

母と二人で過ごしていた。

友人たちと遊ぶ時間をあまり持たない俺を

母は事の外心配した。

母を安心させる為

時々俺は、学校の傍の住宅街に住む友人たちと約束を交わし

彼らの家を訪ねた。

だが、そんな時はいつも・・・

遊び疲れて帰る家路が

遠く  遠く

永遠に到着しないのではないだろうかと不安になる程

遠くに感じた。

 

昼間でも薄暗い森の木々たちは

夕暮れ時、家路を急ぐ俺の頭上に

まるで覆いかぶさるように

風にゆれる葉の擦れ合う音を

大きく、俺の耳に響かせ

子供の俺はその度

いつも通るその道が、まるで初めて見る場所のように思えた。

不安と恐れに必死で絶えながら

やっと辿り着いた山荘の外灯は

一体どれ程俺の心を安堵させてくれただろう。

ドアを開けて中に入り、

「お帰り~」

っと聞こえる母の声を耳にした時

それは・・・

この、ネクタイを解いた瞬間にも匹敵する

いやっ、それ以上の・・・

心地よい脱力感を、俺に与えてくれた。

 

ふっ・・・

子供の頃を思い出すなんて

今日の俺は、何故か少しセンチになっているようだ。

こういう時は、無性に類子の顔が見たくなる。

俺は、類子を守るつもりでいるが・・・

実際、守られているのは、もしかすると俺の方なのかもしれないな。

 

 


ご挨拶

申し訳ございませんが、しばらくの間お暇を頂き

類子と供に、百香を連れて旅行に出る予定です。

私に御用の方は、メッセージをお願いいたします。

戻り次第対応させていただきます。

 

それでは・・・

奥様方も、楽しい連休をお過ごし下さいませ。

 

                       沢木

 


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微熱

頭がフラフラしている・・・

俺が熱を出すことなど滅多にない。

一体、今日の俺はどうしたというんだ?

だが、微熱はまるで酒に酔った気分のようだ。

そう・・・  それも甘い酒に。

口に入れた瞬間、滑らかで濃厚な舌触りと

鼻をくすぐる甘い香りが

まるで頭の奥底を痺れさすように刺激しながら喉を潤してゆく

あの甘い酒に酔った感覚。

夏の夜の海を漂うような

浮いたり沈んだりのフワフワした感覚と軽い痺れが

俺の神経を麻痺させ

蝶が美しい花の香りに吸い寄せられる様に

心地よい夢の中へと俺を誘惑する・・・

 

ふと、額に触れる冷たい感触に目覚めた。

いつの間に、俺は眠っていたのだろう?

ゆっくりまぶたを開くと

そこには俺を覗き込む、美しい二つの黒い宝石。

『類子・・・』

心配そうな表情で覗き込む類子の頬に、熱い手を延ばすと

『かぁい・・・』

俺のその手をとらえ、両手で包み込む類子の冷たい手。

その心地良さに酔うように、俺はしばらく瞳を閉じた。

『槐?』

優しく問いかけるような、類子の声を聞きながら

また俺は

海を漂う様なユラユラした感覚に身を任せ、瞳を閉じたまま

類子の髪にそっと手を延ばす。

『類子・・・ 愛してる・・・』

そのまま触れた彼女の唇は、微熱に犯された俺の熱い唇を

いつまでも

いつまでも

心地よく

冷ましていった。

 


Kai's ポスト

最近、部室に顔を出しても、誰もいないことが多いようだ・・・

あいつらも、それなりに忙しいのか?

動物の世話は、結構骨が折れる・・・が

あいつらの希望も少しは聞いてやらないと、な。

一応ここへポストを置いておくとしよう。

相手が人間ならメールで済むんだが・・・ま、仕方ない。

ん? 

だが、待てよ。 やつら、文字も書けないんじゃ・・・?

まぁ、人間に変化出来るなら、手紙くらいは書けるだろう。


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大切なもの

昨夜の類子は・・・

少し様子がおかしかった。

俺より年下のあいつだが

いつもは、まるで姉のように・・・

いや、まるで母のように

自愛に満ちた眼差しを俺や百香に向け

やさしく微笑んでいる。

だか、昨夜は・・・?

まるで幼い子供のように、俺の腕の中でいつまでも甘えていた。

何かに怯えているのか?

お前が甘えてくるのは、いつも決まって二人だけの夜の時間。

昼間のお前からは想像もつかないような

幼い少女のような表情をして・・・

それは、俺だけの宝物。

俺だけの宝石。

俺の大切なひと。

お前を守ることが、俺の生きる証なのだと

いつかお前に伝えることが出来るだろうか?

 


二人の時間・・・

嫌な事を思い出す。

それは俺に与えられた罰なのか?

あぁ、そうだ。

俺はどんな罰も受けなければならない。

啓吾の人生を奪った俺。

不破の人生を奪った俺。

百香の人生を捻じ曲げた俺。

そして、類子に・・・ 

永遠に消えない傷を・・・ 苦痛を負わせた俺。

いくら謝っても、類子の心の傷を拭い去ることは出来ない。

類子

ルイコ

るいこ・・・

俺の天使。 俺の神。

俺を抱く彼女の腕は

戦場で傷ついた兵士を救う、白衣の天使よりも優しい。

お前を見つめる時。

それが俺にとって至福の時だと、お前は気づいているのだろうか?

類子・・・

俺のナイチンゲール

 


見つけた・・・

いい薬を手に入れた。

これを毎日少しずつお茶に混ぜて飲ませると・・・

フッ!! これで、あいつらも少しは大人しくなるだろう。

だが、問題はどうやって飲ませるか・・・

個々に量を調整して、身体に悪影響が出ないよう細心の注意が必要だ。

あまり飲ませすぎると、馬鹿なあいつらが益々馬鹿になっても困るからな。

一人の時を見計らって、お茶を入れてやれば・・・

皆、喜んで飲むだろう。

まずは・・・

ココとごまからだ。 

まぁ、二人の・・、いや、一人と一匹の様子を見て

他のやつらに飲ませる薬の量を調整すればいいだろう。

(あいつらは殺しても死なないから、少々量を間違っても大丈夫だ。)

毎日飲ませておけば、もう俺を縛ったり舐めまわしたり変な薬を盛ったり・・・

そういう危険な行動も思考もなくなるはずだ。

よし。 明日から、早速実行に移すとしよう。(ニヤリ)


疲れた・・・

毎日騒がしいあいつらの面倒を見るのは、本当に骨が折れる

何故あいつらは飽きもせず、ああも楽しげに騒いでいるんだ?

人の顔を見るとすぐに大騒ぎしては、スリ寄って来たりしっぽを振ったり・・・

まだそれはいいんだが、ちょっと油断すると縛ったり、変な薬を盛ったり・・・

あいつら、俺を何だと思ってるんだ!!

今度は俺があいつらのお茶に薬を一服盛ってやろうか?

フッ・・・ いい考えだ。 

どこかに「騒がしい女が大人しくなる薬」ってのはないのか?

そうだ、ネットで探してみよう。

今はネットを利用すれば、何でも手に入る。

案外、スンナリ見つかるかもしれないしな・・・


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